【MECT2023 Report】売上に直結しない“後工程”の自動化がもたらすメリット

2023.11.29

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メカトロテックジャパン/通称MECT(メクト)は、2年に一度名古屋で開催される国内最大級の工作機械見本市。10月18日から4日間にわたって賑わいをみせたMECT2023は、過去最多となる492社・団体が出展し、来場者数は7万7千人を超えた。生産性を高める最先端の工作機械や精密機器、工具・治具が一堂に会する同展において、山善トータル・ファクトリー・ソリューション(TFS)支社は協働ロボットをはじめ各種精密機器を駆使した“後工程”の自動化を提案。その狙いはいったいどこにあるのか?背景にある社会課題を踏まえて紐解いていく。

いま、“後工程”の自動化が必要とされるワケ

どの分野でどんな製品を生産するにせよ、加工後には何らかの工程が必要だ。そうした中で、TFS支社は、自動車部品にも使用されるヘリカルギア(歯を斜めにした歯車)を対象として「AI外観検査」を含む製造後の4工程の自動化を紹介。「バリ取り」「粗さ測定」「硬度測定」「AI外観検査」の各工程間を「AGV」と呼ばれる無人搬送機でリレー運搬しながら、「稼働監視装置」を取り入れて、機械の稼働状況、製品の品質情報、生産状況を可視化した。


東海ソフト社の「稼働監視装置」。すべての工程をカメラでモニタリングし、稼働率は画面に一覧表示される。

東海ソフト社の「稼働監視装置」。すべての工程をカメラでモニタリングし、稼働率は画面に一覧表示される。

山善TFS支社のMECT出展報告の動画。デモ実演の様子などが紹介されている。



今、製造業の生産ラインにおいて、自動化は大きな課題となっている。山善が実施したアンケート調査によれば、自動化・省人化の進捗率は30%以下と回答する人が6割を超えている。


製造業界の課題を反映するように、MECT2023では公式ウェブサイト出展企業検索ページによると出展企業全体の約20%、104もの企業が自動化をテーマに掲げていた。だが、その多くは製造工程における自動化提案。なぜ、TFS支社は後工程の自動化をテーマに据えたのか。

「以前から加工機と産業用ロボットの通信体制や安全対策は確立されており、製造工程の自動化はある程度進んでいるが、一方でバリ取りや検査といった後工程を人の手で行っている企業は少なくない」。そう語るのは金属加工機と周辺機器をつなぐラインの自動化を提案する山善 TFS支社のMP(Material Processing)課リーダーの冨永だ。


来場客に自動化ラインを説明する冨永

来場客に自動化ラインを説明する冨永

製造工程の自動化は生産効率が高まり売上につながるが、後工程は品質管理に関する工程が主なため、売上には直結しない。そのため、後工程の自動化の優先度が低いことに加え、もう一つは費用の問題もある。実は、後工程の自動化導入の費用に対し、人の手で行っている人件費のランニングコストの方が安く済むのが現状だ。これが後工程の自動化を妨げる大きな障壁になっている。そのような状況下でも人手不足の波は着実に押し寄せている。後工程の自動化も今後は避けては通れない状況なのだ。

後工程の自動化によるメリットとTFS支社の強み

では、後工程の自動化がもたらす利点は何か。省人化や生産性の向上、品質の安定性とさまざまあるが、特筆すべきメリットとしては生産ライン全体のリスクヘッジになることだろう。

品質検査には「全数検査(生産品すべてを検査する)」と「抜き取り検査(生産品からサンプルを抜き取って検査する)」があり、多くの工程では「抜き取り検査」が主だ。しかし抜き取り検査だと、1つの製品に不備が見つかった場合、リコール対応等で製品によっては出荷ロットの全数検査が発生する。

製造工程を自動化して生産性を高めたとしても、製造後の検査工程で見落としが発生し、不良品を製作しては元も子もない。そのため、AIによる全数の外観検査の自動化を検討する企業が徐々に増えてきているという。今回のTFS支社のブースで紹介した、「非接触粗さ測定」「非破壊硬度測定」の機器もインライン化することにより全数検査が可能だ。


Musashi AI社の「AI外観検査機」。検査はほんの数秒で完了し上部のモニターに結果が表示される。

Musashi AI社の「AI外観検査機」。検査はほんの数秒で完了し上部のモニターに結果が表示される。


アステック開発社の「非破壊硬度測定」は全数の硬度保証を実現する。

アステック開発社の「非破壊硬度測定」は全数の硬度保証を実現する。

また、冨永によれば、展示はあくまで提案内容の一例に過ぎないという。今回のヘリカルギアに相当するワークは企業によって異なり、生産ラインにおける課題もさまざまだ。企業によってはシャフトを生産したり、樹脂製品を扱ったりと対象となるワークは多岐にわたる。そんな千差万別のニーズにあわせてオリジナルの生産・検査ラインを組み上げて提案することこそがTFS支社の強みだという。


 工程間の移動を行う明電舎社の「AGV」(無人搬送機)。

工程間の移動を行う明電舎社の「AGV」(無人搬送機)。

当社の強みは課題を解決するために最適な手法を際限なく考え抜けること。取引のある既存メーカーに限らず、仕入先を自由に開拓できるんです。洗浄や防錆といった自動化の工程を組み込むことももちろん可能ですし、最後の梱包までを含めて全自動にしたいという相談をいただくこともあります」(冨永)


ケン・オートメーション社取扱いの「非接触粗さ測定」。展示会の自動化ラインにも新規開拓したメーカーが含まれている。

ケン・オートメーション社取扱いの「非接触粗さ測定」。展示会の自動化ラインにも新規開拓したメーカーが含まれている。

企業のニーズに合わせて自動化ラインを細やかにカスタマイズするノウハウは、今回展示した自動化ラインにも詰まっている。

「AGVの動作の誤差を補正し、各機械にワークを正確に配置するため、協働ロボットにカメラを取り付け、位置補正用のランドマークを読み取ることで位置を補正しています。このように工場に自動化設備を納品する場合も、現場の状況にあわせて微調整をおこなっているんです」。(冨永)


バリ取り工程の協働ロボット「テックマン」は、山善が主要代理店を担っている。

バリ取り工程の協働ロボット「テックマン」は、山善が主要代理店を担っている。

潜在的な社会課題や時流を捉え、少し先の未来を見据えて後工程の自動化を提案するTFS支社。今後の展望についてどのような考えがあるのだろうか。

専門性に“特化しない”。だからこその総合力―――


 ”工場におけるあらゆる課題を丸ごと解決する”はTFS支社のミッションだ。

”工場におけるあらゆる課題を丸ごと解決する”はTFS支社のミッションだ。

製造業における自動化に限らず、食品業界をはじめとする三品業界の自動化にも取り組むTFS支社は、2023年6月に開催された「FOOMA JAPAN 2023」(国際食品工業展)にて、お惣菜などの盛り付けを省スペースで行える自動化ラインを展示した。また、2023年11月末に開催される「2023国際ロボット展」では、AGVを使用して協働ロボットの有効活用等を提案する予定だ。業界を問わず躍進をつづける裏には、専門性の高い見識を持つ大手機械メーカー出身者が在籍するTFS支社の技術サポート部の存在がある。

単なる“モノ売り”ではなく、かたちのない“コト売り”において、表面的な課題にとらわれず課題の本質を見極めて提案できる見識の高さは、顧客からの信頼に直結する。そのためには、専門性に特化しない総合力が鍵になる。

「ひとつに特化していないからこそ提案の幅が広がり、総合力で戦える。それが唯一無二の山善ブランドを築くことにつながると考えています」。(冨永)

総合力を武器に提案をおこなった山善ブースは、4日間の展示を通して多くの企業担当者で賑わった。進化をつづけるTFS支社のソリューションは、今後も多くの企業の成長を助けていくことだろう。

工場のFA化を支援する、山善TFS支社のサイトはこちら
山善TFS支社 https://tfs.yamazen.co.jp/




第2展示館:株式会社ニュースダイジェスト社提供

株式会社ニュースダイジェスト社提供

※この取材は2023年10月に行いました。文中の社名・部署名・役職等は取材当時のものです。

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